渋谷 鉱 (日本大学松戸歯学部麻酔学教室教授)
【執筆者一覧】
渋谷 鉱(日本大学松戸歯学部教授)
山口 秀紀/宮本 康子/卯田 昭夫/下坂 典立/橋本 崇文/村田 晃一/黄司 優華/石橋 肇 (日本大学松戸歯学部麻酔学教室)
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一般歯科診療、すなわち、う蝕治療、歯周(病)治療、義歯やその後のリハビリテーションや抜歯・口腔外科処置などにおいて、多くの患者は、緊張はしても大きな偶発症や医療事故に発展するなどということは考えてもいない。しかし、ときに、歯科診療が引き金になって予期せぬ、大きな偶発症が生じる可能性は常に潜在している。我々歯科医師が、歯科治療を行っているとき患者はストレスにさらされている。1本の歯牙には脈々と血が通い、神経の枝がはり巡らされていることから、1本の歯牙への侵襲は全身におよび、神経血管は全身の呼吸、循環、代謝、内分泌に確実に影響を与えているのである。歯科治療に際して、観血的処置時、とくに抜歯などの際には歯科医師自身もこのことに注意を払うが、補綴、保存処置のときは、ともすれば、生体に侵襲を加えているということを置き去りにしていないだろうか。
近年の平均寿命の延長に伴う高齢社会の状況から、合併症を有する歯科患者の来院は確実に増加傾向にある。これまで、歯は全身の臓器の一つであり、歯科疾患を単に局所的に診るのではなく、口腔全体から全身状態のかがみとして診ることが重要であるといわれてから久しい。現代は、「木(歯)をみて、森(全身)をみない」ということは決して許されない時代になっている。したがって、全身管理(生体管理)学の修得は、高齢社会の到来や合併症歯科患者が多くなっているから必要なのではなく、歯科医師としてその知識および実践は当然である。
本書は、現在の歯科医学(歯科医療)水準に照らし、歯科医師として必要と思われる全身(生体)管理学と救急蘇生法について編纂した。また、AHA(American Heart Association)は2000年8月、心肺蘇生法の新しいガイドラインを発表し、21世紀初頭に救急蘇生法の新しい指針が示されたので新基準に従って記述した。
歯科医師が合併症を有する患者を診療するとき、最も大切なことは、全身(生体)管理のための基礎知識を身につける「安全管理」と、緊急偶発症に際していかに対応するかの「危機管理」(救急蘇生法)との二つである。歯科診療に際して、全身(生体)管理学と救急蘇生法は表裏一体をなすものである。
歯科臨床の第一線で活躍されている皆さんの参考書になれば幸いである。
(本書「はじめに」より)
第一章 序論
第二章 救急処置に必要な基礎知識
第三章 バイタルサイン
第四章 全身状態の評価
第五章 歯科診療時における全身的偶発症
第六章 全身疾患を有する患者の歯科治療(注意が必要な患者の歯科治療)
第七章 麻酔法
第八章 救急蘇生法
第九章 一般的な救急処置